2014年4月24日木曜日

「 ユカちゃん 」


高校の時、同じクラスにユカちゃんという子がいた。
入学当時ユカちゃんは、長い黒髪の真面目そうな女の子だった。
ユカちゃんは夏を境にギャルへと進化した。

あの頃のギャルといえば顔グロ(ガングロ)が流行っていたので、
濃いめのファンデーションを顔に塗り、白のコンシーラーを唇に塗っていた。

ユカちゃんは誰とでも話す気さくで明るい性格で、
ユカちゃんの席が私の真ん前だった時ちょくちょく話をするようになった。


夏が近づくに連れ、ユカちゃんは学校を遅刻するようになっていった。

ある日、ユカちゃんはいつものように休み時間にやってきた。

しかし、髪型が明らかにおかしかった。

片方の横髪だけ異様に短くなっていたのだ。

ユカちゃんに「どうしたの?」と聞くと、笑いながらこう言った。


 昨日の夜、夜中まで遊んで帰ったら、
 親に殴られ上に乗っかって髪を切られた と



その夜の凄まじい状況が伝わってきた。
片方の髪を掴まれ、そのままバッサリハサミで切られたようだ。


しかし、ユカちゃんは笑っていた。
そして何日も、ユカちゃんはその頭で学校に登校していた。


ユカちゃんは、箱入り娘だったのだと思う。
親が娘の上に乗っかり、長かった髪を切るなんて、
相当のことがない限りしないと思うから。
それまで親の言うことをちゃんと聞いてきたのだろう。




長く伸ばした髪を切られ、それが親離れの儀式になったのか
ユカちゃんは、何かが弾けたかのように顔グロギャルに生まれ変わっていった。



顔グロになって、見かけは変わったけど、
ユカちゃんの気さくで明るい性格は何も変わらなかった。
そしてとても楽しそうでいつも明るく輝いていた。


髪を切られたあの日、
笑いながら話していたユカちゃんの笑顔を今でも時々思い出す。



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「 だいじょうぶ 」


小学生の時、友だちとの間でいざこざがあった。

わたしは「○○ちゃんなら大丈夫だよ」と言った。
そしたら、別の友だちに「何が大丈夫なんだ?」と攻められた。

軽い気持ちで「大丈夫だよ」と言った自分。

攻められたけど、否定されるのが嫌だった私は
それでも大丈夫だと言い通した覚えがある。


大人になってから、
私は自分に対して「大丈夫」と思いたい時
「大丈夫」とは思わないようにしている。
それは油断することになってしまうから。


でも、人から「だいじょうぶだよ」
と言ってもらうことは嫌じゃない。
むしろ安心する。

人に言ってもらう「だいじょうぶだよ」と
自分が「大丈夫」と思うことは別物のように思う。



しかし、小学生の時「何が大丈夫なんだ?」と攻められ
それに反発した自分は、いただけないと思った。




* * * * *

2014年4月23日水曜日

「 私の高野豆腐の思い出 」


子供の頃、友達の家へ泊まりに行った時
夕飯に手巻き寿司を出してくれた

その中身の具の一つに高野豆腐があった
高野豆腐をそうして食べるのは初めてで
その美味しさに驚いた思い出がある

高野豆腐は、ごはんにも酢めしにもよく合う




自分で高野豆腐を煮てみたら
とても簡単に出来た
わたしは少し甘めが好き


そして高野豆腐を食べると、必ずあの日の手巻き寿司を思い出す
高野豆腐に感動した部分だけ、一枚の写真のように、その部分だけ


他の具材が何だったのか、私はひとつも覚えていない
もしもあの時、高野豆腐がなかったら
あの日の夕飯が手巻きだったことも忘れていたかもしれない



高野豆腐を食べる度、何度でもあの日の手巻き寿司を思い出す




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2014年4月18日金曜日

「 宝物箱 」


いつか捨てるのだと思うけど、
引っ越しを重ねるごとに捨てられない物が集まった宝物箱ができていた。

その宝物箱の中には、買ってもらった物はトトロの小銭入れだけで
あとは手紙や手作りのカードや手作りのお守りが入っている。


心は見えないものなのに、何十年も捨てられないでとっておいた物が
まるでそのとき頂いた心が形になっているかのように此処に残っている。


物なら捨てられるけど、頂いた心はいつになっても捨てられない。


でもこれは、私にとってはその時々に頂いた心だけど
全く知らない人にとってはゴミに見えるだろうから
自分の魂がなくなる時、私の事を全く知らない人に
捨ててもらいたいなぁと思う。


これを捨てる時って、いつなんだろう。
って考えていたら、そういう答えが出たのでした。


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2014年4月16日水曜日

「 紗栄子 」


ネットの何かで紗栄子のインタビューを読んだ。

その中に、美容の為にやっていることで
“化粧水を一週間で一本使い切るようにしている”
といった内容が書かれていた。

写真家の蜷川実花さんも言っていたのだけど、
紗栄子はお肌が透き通るように綺麗だそうだ。

化粧水を一週間で一本使い切るということが、
そう簡単なことではないことは女性なら分かると思う。
紗栄子は身体にも化粧水を使うと書いてあった。





私は昔から肌トラブルが多い。
季節の変わり目やストレスで肌が荒れしてしまう。
お肌が白くてつるつるしている人を見るとうらやましくなる。


でも、この記事を読んでハッとした。
私は化粧水も乳液も、とにかくケチって使っていた。
1000円もしない化粧水を半年は保たせている。





お風呂上がりに“紗栄子一週間に一本”が頭をよぎる。

この日を境に、私は化粧水をケチるのをやめた。


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2014年4月15日火曜日

「 向き 」

私は植物を飾るとき向きを大事にしている。


その植物が素敵に見える場所に置き、
現状の伸び具合で一番いい向きが正面に見えるように置く。


そうすると、
自然と人間の目から「素敵ねっ」という気持ちがこぼれ
植物は、さらに成長する気がする。


玄関で育てているアイビーが、
暖かくなり一気に新しい芽を出した。

くるんと向きを変えてみると、
今まで私が見ていた姿とは反対側の方が生き生きとしていた。


植物は人間のことなんてどーでもよくて、
ただお日様を浴びたいだけ。

そう思った。




















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2014年4月11日金曜日

「 歯磨き 」


最近歯医者へ通うようになった。

昨年も通っていたけど、一回予約した日を忘れすっぽかしてしまった。
それから長いこと時が経ってしまっていた。

すっぽかしたことに気づいたのは、予約日から数日のことだった。
謝罪の電話を入れようか迷ったけど、うやむやにして過ごしてしまった。

それがずっと心に引っかかっていて、
自分の中には二つ選択肢が出来ていた。


 一つは、別の歯医者へいく

 もう一つは、次行った時に先生に謝る


長い事、この選択肢の間を行ったり来たりしていた。



ある日、目視でも分かるくらい
虫歯が広がっていることに気がついた。

これはまずいと思った。
そして遂に選択の時が来た。




私はすっぽかした歯医者さんにもう一度予約を入れた。

久しぶりに会う先生に「その後いかがですか?」と聞かれた。
私は開口第一声「前回予約を忘れてすみませんでした…」と言った。
先生は「はい」とだけ言って、歯の症状を聞いてきた。
長い事悩んでいた塊は砕けばらばらになってどこかへ消えていった。



先生が、
次回歯のクリーニング(歯石取り)をするので
こうやって歯を磨いて下さいね。
と丁寧に歯の磨き方を教えてくれた。


その磨き方は、過去に何度か
どこかの歯医者さんで教えられたものだった。


いつもは適当に聞き流していたのに、
今回はちゃんと聞いている自分がいた。
予約をすっぽかした私。
それでも親切に教えてくれる先生。
感謝して真面目に話を聞いた。


先生は、もちろん仕事だから
ただ仕事をしているだけなのは分かっている。

それでも、私は嬉しかった。


次の治療まで一週間。
わたしは三食毎回、これまで届いていなかった
歯と歯茎の間に歯ブラシをあて、その痛痒さに喜びを感じている。



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2014年4月10日木曜日

「 串 」


串に刺さっている食べ物にはなんだか惹かれてしまう。


一時期やきとりにハマったけど、やきとりは串で食べるから美味しい。
大人数でやきとりを頼むと、親切に串から外してくれる人もいるけど
わたしは串のまま食いつきたい派だ。


観光地などでよく売っているキュウリの一本漬けも、
キュウリがただ串に刺さっているだけなのに
歩きながら食べている人を見ると、必ず自分も食べたくなる。



屋台やサービスエリアでは、食べやすいように串に刺さっているものが多い。
それが普段どこにでも売っているようなものであっても、
串に刺さっているだけで、食べたい気持ちをそそる。
そして、たいして特別に美味しくなくても美味しく感じてしまうから不思議。
これもきっと串の効果に違いない。



いつも通っているスーパーに、タコ焼き串というのが売っていた。
串にタコ焼きが4つ刺さっている。
串に刺されたタコ焼きは、見た目がとてもかわいらしい。
ついその風貌に無駄に買いそうになったけど、ぐっとこらえた。


レジに並んでいる時、私の前に自分と同い年くらいの男性がいた。
その男性のカゴには、さっき見つけたタコ焼き串が2本入っている。
この人が食べるのかな?と思いレジを通されていく品物を見ていると、
どうやら独身ではなさそうで、お子さんがいるような内容だった。


きっと、子供がよろこぶと思ってタコ焼き串を選んだに違いない。
そう思って買っただろうその男性の優しさが、
私の胸のハートにぐっと刺さった。




ただの串 されど串


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2014年4月9日水曜日

「 イカわた 」

イカわたのホイル焼きが美味しく出来た。
ネットで調べて、ベストなレシピを選んで作ってみた。

インターネットって本当に親切だと思う。
無料で沢山の情報が提供されている。

料理本も買わないですむし、
イカのさばき方も習いに行かないですむ。

お金を使わないでこんなに美味しい思いができるなんて。


インターネットが普及されて、
世の中は貧乏になってはいないのかな。

親切な人がたくさんいる裏側で、
食べて行けなくなるプロの人がたくさんいるんじゃないかな。




“美味しいイカわたの作り方を教えてくれてありがとう!”

という感謝の気持ちをどこの誰にも向けていない自分に気がついた。


自己満足同士で成り立っているネットの世界は
本当にこのままでいいのだろうか。

何らかのアクシデントで、地球に飛び交う電波が遮断されて
インターネットがどこの国でも使えなくなったら、
日本にも活気や本来のコミュニケーションが取り戻されるのではないかと思った。



便利なことをマイナスしていくと、沸き上がってくる大切なことがある。

テレビをやめて気がついた事。SNSをやめて気がついた事。
インターネットをやめたら気づく事、たくさんありそうだ。

でも、電話とネットは無くなると生活に支障が出てしまうのでやめないけど。



ネットの中のどこかの誰かさまへ
あなたのおかげで美味しいイカわたホイル焼きが出来ました。
ありがとうございます。

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2014年4月6日日曜日

「 サ イ 」


どこかの家で山椒の若葉がたくさん芽を出していた。
黄緑色がとてもきれいで美味しそうだった。
山椒には棘があるのだけど、棘を見ていて思い出した。


子供の頃、バラの花の棘を取りツバを付けて鼻の頭にのせ
「サイ」と言ってあそんだ。


「サイ」をして遊んだ時間を思い出すと、
今の自分がすごいつまらない人間になってしまったような気がしてしまう。

じゃぁまた「サイ」をしてみればいいのか?
といったらそこには違和感がある。


そうじゃなくって、
昔にばかり捕われているのでもなくって
新たな「歳」を見つけて行きたい。


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2014年4月2日水曜日

「 テロテロのシャツ 」


もう、10年くらい着ているシャツがある。

テロテロでのびのびなんだけど、
肌触りがとても気持ちよくパジャマやインナーなど見えないところで着ている。


昔、母のババシャツがボロボロだったので
「捨てないの?」と聞いたことがあった。
母は「この方が着やすくていいのよ」と言っていたけど、
わたしはその時、「うちは貧乏だからなぁ」と思っていた。


でも、今は母の気持ちが分かる。

肌に触れる服は、テロテロでのびのびがいい。
テロテロになってやっと気持ちのいい肌触りになる。


わたしのシャツは穴が空いてきてるけど、
やっとこの気持ちのよい肌触りを手に入れたので
本当に本当に着れなくなるまで捨てない。



子供の頃は「うちは貧乏だからなぁ」と思うことが沢山あった。

物も食べ物も、必要な分はあったけど、
余計な事はしないし、余計な物もなかったように思う。

大人になり、段々その暮らしが立派なものだったのかもしれないと
思えるようになってきた。

そして、今こうやって思えるのは、
きっとうちの親が貧乏だからやっているという意識でなく、
それがいいと思ってやってきたからなんだと思った。



4月からの増税。

税抜き価格と税込み価格を見比べると少しゾッとするけど、
増税とともに心を倍豊かにして過ごしたいと思う。


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